夢野久作「難船小僧(S・O・S・BOY)」

audiobook (Unabridged)

By 夢野久作

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昭和二年頃の十月の末だったっけ......

足音高くブリッジに登って行った俺は、船長(おやじ)の背後でワザと足音高く立停まった。

「おはよう......」と声をかけたがは見向きもしない。何しろ船長仲間でも指折の変人だからね。何か一心に考えていたらしい。俺は右手に提げた黄色い、四角い紙包を船長の鼻の先にブラ下げてキリキリと回転さした。

「御註文のチベット紅茶です。やッと探し出したんです」

船長(おやじ)はやっとびっくりしたらしく首を縮めた。無言のまま六尺豊かの長身をニューとこっちへ向けて紅茶を受取った。

「ウウ......機関長か......アリガト......」とプッスリ云った。コンナ時にニンガリともしないのがこの船長の特徴なんだ。取付きの悪い事なら日本一だろう。こんな男には何でも構わない。殴られたらなぐり返す覚悟でポンポン云ってしまった方が、早わかりするものだ。

......昨夜、陸で妙な話を聞いて来たんですがね。今度お雇いになったあの伊那一郎って小僧ですね。あの小僧は有名な難船小僧っていう曰く附きの代物だって、皆云ってますぜ。あの小僧が乗組んだ船はキット沈むんだそうです。乗ったら最後どんな船でも沈めるってんでね。......だから今度はこのアラスカ丸が危えってんで、大変な評判ですがね。陸の方では......

<b>夢野久作(ゆめの・きゅうさく)

日本の小説家、SF作家、探偵小説家、幻想文学作家。

1889年(明治22年)1月4日 - 1936年(昭和11年)3月11日。

他の筆名に海若藍平、香倶土三鳥など。

現在では、夢久、夢Qなどと呼ばれることもある。福岡県福岡市出身。

日本探偵小説三大奇書の一つに数えられる畢生の奇書『ドグラ・マグラ』をはじめ、怪奇色と幻想性の色濃い作風で名高い。またホラー的な作品もある。

夢野久作「難船小僧(S・O・S・BOY)」